もっと自由にベースボール!藤沢・野球塾『Perfect Pitch and Swing』

最近、ちょっと右肩下がり気味とはいえ、国民的人気スポーツの代名詞的存在なのが野球。プロ野球球団や元プロ野球選手が開催する野球教室には少年少女が多く集まっています。そんな知名度の高い野球教室とはちょっと違った野球塾が藤沢にあります。
インストラクターは北米や南米のプロリーグを経験した長坂秀樹さん。そこにはアメリカン・ベースボールのスピリットがぎっちり詰まっています。

藤沢・野球塾『Perfect Pitch and Swing』

インストラクターは比類なきキャリアの持ち主

スポーツをテーマにしたアメリカ映画というと、そのオープニングの多くは華やかなメジャーではなくマイナーな雰囲気。長坂秀樹さん主宰の『野球塾Perfect Pitch and Swing(パーフェクト・ピッチ・アンド・スウィング)』へ訪れた時、そんな映画のワンショットがふと頭をよぎりました。

藤沢駅南口から歩くこと約5分。辺りは飲食店やオフィスが入っているビルばかり。もちろん広い球場は見当たりません。こんなところで本当に野球塾?と浮かんだ疑問符を打ち消すように、いかにもアメリカンなタッチで書かれた『野球塾Perfect Pitch and Swing』のサインボードが目に止まりました。

雑居ビルの2階、ドアは重厚な鉄製。ますますアメリカ映画です。でも、そこで迎えてくれたのは映画演出にありがちな頑固老トレーナーではなく、気さくで笑顔が魅力的な長坂秀樹さん。ピッチャーとして東海大三高で甲子園の土を踏み、東海大学では大学選手権準優勝の立役者、さらにアメリカを皮切りにカナダやコロンビアなどのプロリーグを単身で渡り歩いた比類なきキャリアの持ち主です。

藤沢・野球塾『Perfect Pitch and Swing』を主宰する長坂秀樹さん

練習中でもガムを噛んでいい『自由』

長坂さんのエピソードは後述するとして、まずは『野球塾Perfect Pitch and Swing』の紹介をしましょう。

藤沢・野球塾『Perfect Pitch and Swing』の練習風景

鉄製の扉の中はビルのワンフロアなので決して広いとは言えませんが、さまざまな練習器具が機能的に配置されています。Perfect Pitch and Swingの名前の通り、ここでは投げる、打つ、捕るといった野球のもっとも大切な基本動作を学ぶことができます。

藤沢・野球塾『Perfect Pitch and Swing』で練習する子ども

年齢も学校も違う門下生たちは塾開始前に集まると、長坂さんの指示を仰ぐことなくそれぞれが分担を決めて練習の準備を始めます。最初こそ練習スケジュールを提示するために、長坂さんを中心に円陣を組みますが、あくまでブリーフィングといった雰囲気。ここに『大人対子供』という図式は見受けられません。

藤沢・野球塾で練習する子ども

この図式は練習の最中でも同じです。ボールキャッチ、ピッチングフォーム、スイングに至るまで基本動作の指導は細かく行うものの、その実践について長坂さんが口を挟むことはありませんでした。

藤沢・野球塾を主宰する長坂さんによるバッティング練習

比類のないキャリアを持つインストラクター、インドアの練習、独特の指導法、どれを取っても少年野球の固定観念に当てはまらない野球塾です。

藤沢・野球塾でバッティング練習する子ども

門下生たちの練習モードの眼力、すごいです。まさにターゲットを射抜く眼ですね。ボールから、ミットから眼を離さないというのは基本ですが、これ、なかなかできることじゃありません。

「うちは『自由』ですよ。極端な話、ガムを噛みながら練習してもいいんです。もっとも、噛んだガムを床に落としたら1ヶ月間、ガムを噛むのを禁止にしています」と笑いながら話す長坂さん。この『自由』、なかなか厳しい一面もあります。

ボーイズリーグの指導が端緒となり縁となる

長坂さんが藤沢で『野球塾Perfect Pitch and Swing』を始めたのは2011年9月。この頃、すでに日本でも独立系プロリーグが活性化し、アメリカから帰国した長坂さんは一時、ベースボール・チャレンジ・リーグ(BCリーグ)の新潟アルビレックスBCに所属していました。

同年に退団後、引退を決意した長坂さんは大学時代の先輩に請われて日本少年野球連盟(ボーイズリーグ)所属の湘南ボーイズで少年たちを指導。この時の経験が『野球塾Perfect Pitch and Swing』の開設につながりました。

藤沢・野球塾『Perfect Pitch and Swing』を主宰する長坂秀樹さん

「元プロ野球選手のインストラクターといっても日本の有名な球団にいたわけではないので知名度は低いし、門下生が集まるのか心配でした。案の定、最初の3ヶ月は門下生が集まらず、どうなることかと思いました」と、長坂さんは当時を思い出して笑います。それでも一部のベースボール・ファンには知られた存在だったこと、またテレビ東京の人気番組「モヤモヤさまぁ〜ず」などのマスコミで取り上げられたことで門下生が集まり始めます。

中日スポーツに掲載された長坂秀樹さんの記事

大きな飛躍のきっかけとなったのは2016年3月の中日スポーツに掲載された記事。「竜戦士が語るボクの先生」という連載第1回目で、2015年に中日ドラゴンズがドラフト第1位指名した小笠原慎之介選手が長坂さんを紹介しました。

小笠原選手、前述した湘南ボーイズに在籍した経験があり、その時に長坂さんから指導を受けていたのです。詳しい指導方法は省きますが、小笠原選手の「目標とするプロ野球選手は長坂秀樹さんです」の言葉からは、長坂さんとの師弟関係の深さが伝わってきます。

「この塾にはいろいろな野球好きの子たちが集まっています。リトルリーグや部活動で野球をやっているけれど、もっと個別に教わりたい子がいれば、そういった団体の組織に馴染めない子もいます。野球をやりたいけれど求める環境がない、この塾はそんな子たちの受け皿でもあるんです」と、長坂さん。

藤沢・野球塾『Perfect Pitch and Swing』少人数制の野球指導

スペースが限られているので1回の受講は少人数制。その分、個々に長坂さんの眼が届くのも、この塾の特徴でしょう。

ベースボールに挑戦し持ち帰ったもの

長坂さん、訳あって、というか当時の東海大学の監督、伊藤栄治さんと衝突して(もちろん今では和解しています)大学野球部を辞め、卒業後はジュエリーアドバイザーとして働いていました。それでも野球への想いは断ち切れず、本場のベースボールへ挑戦します

藤沢・野球塾で子どもが練習する野球のボール

実力はあるといってもアメリカでは無名の選手です。トライアウト(入団試験)が受けられるのはメジャーはもちろんマイナーリーグよりもっと下のプロリーグ。でも、ここで活躍すればスカウトの眼に止まり、ステップアップすることができます。長坂さんのチャンレンジが始まります。

「最初の頃は月給が400ドル。しかもシーズンオフになると当然、給料はもらえません。食費にも困る生活でだったので、ヒマワリの種ばっかり食べていた思い出が残っています」と、苦笑する長坂さん。

アメリカのプロリーグでチャレンジする長坂さんの野球記事

ヒマワリの種はアメリカでは気軽に手に入るスナックで、メジャーリーグ中継でも話題になっていましたね。たとえ少なくても月給が貰えれば選手としてプレーできます。でも…。

「昨日まで一緒にプレーしていた隣の選手のロッカーを、今日は新しく入団してきた選手が使っているなんてことは珍しくないんです。だからといって感傷に浸っている暇なんてありません。いつそれが自分の立場になるか分からないのですから。自分も練習で投げていた時、後ろでコーチたちが『今日、結果が出なければリリース(放出)だね』なんて会話していたのを覚えていますよ」

まさに毎日が勝負。そんな厳しい状況下、2002年から2009年までプレーを続け、通算43勝を上げました。
「入団しても、すぐにチームに溶け込めるわけではありません。やはり試合で活躍しないとダメですね。結局、それがチームのためになるのですから。活躍した時、初めてチームメイトとして迎えられるのです」

もちろん、活躍の方法なんて誰かが教えてくれるわけではありません。どうすれば活躍できるのか?その答えは結局のところ、自分の決断と責任。単身渡米、し烈なプロリーグでのポジション争い、日本を離れた日常、それらの経験が『野球塾Perfect Pitch and Swing』の礎を作っています。

藤沢の野球塾『Perfect Pitch and Swing』を主宰する長坂秀樹さん

プロリーグの話題は日本でほとんど紹介されないため、長坂さんが語るエピソードは新鮮かつ希少。アメリカ・スポーツ映画の現実が、ここにありました。もっと詳しく知りたい方、ぜひ『野球塾Perfect Pitch and Swing』を訪問してください。

自由の意味を知ってベースボールを楽しむ

野球とベースボール。その違いはなんでしょう?

野球とベースボールの歴史

太平洋戦争下、英語は敵性語としてすべて日本語に直されました。しかし戦後、外国由来のスポーツは現地発音に戻されています。蹴球だったサッカー然り、闘球だったラグビーもまた然り。野球だけが、依然として日本語のままです。

もちろん、投げる、打つ、捕るといったルールに違いはありませんし、技術的な認識も共通していれば、結果を残すという到達点も一緒。それでも、野球とベースボールは違う、とよく言われます。おそらく、その違いは到達点に至るまでの過程。極端に言ってしまえば野球=団体主義、ベースボール=個人主義という図式でしょう。

どちらも一長一短。長坂さんは日本の野球を踏まえてベースボールに挑戦、そしてプロリーグを肌で感じた結果、日本の野球と一緒にベースボール・スタイルを塾に取り入れました。

藤沢の野球塾を主宰する長坂秀樹さんのユニフォーム

「ここで教えるのはベースボールの技術的なことだけではありません。もっとも学んでほしいのは『自由』の責任です。指導した内容を繰り返すことはしません。その時、聞かないのも自由です。でも、その自由は結局、自分に跳ね返ってくることを覚えてほしい。教わったことをそのまま実践するのではなく、自分で考えて工夫するのも自由です。自由の意味を知った上で、ベースボールを楽しんでもらうのが、『野球塾Perfect Pitch and Swing』の願いです」

自分の『自由』をコントロールして責任を持つ。これ、考えてみればアメリカ的とか日本的とかではなく、人として大切なこと。『野球塾Perfect Pitch and Swing』で学んだことは、この先、野球から離れることがあっても必ず人生の役に立つでしょう。

アメリカのプロリーグ所属時代の長坂秀樹さん

ただ、願わくは『野球塾Perfect Pitch and Swing』の卒業生がメジャーリーグの舞台に立つ時を見たいものですね。

ライター

ライター:TaddyBear
女性雑誌や旅行誌、カード誌など紙媒体を経て現在はWEB媒体を中心に活動しているナチュラル・ボーン・フリーライター。高校は辻堂に通っていたので湘南が遊び場になった経験あり。現在は横浜在住。湘南へ遊びに行きたいママさん目線、大切にしたいと思っています。

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