2011年3月11日の東日本大震災。その後も、2016年4月に熊本地震、2018年9月には北海道胆振東部地震、それ以外にも震度6弱以上の地震は各地で起きています。
いつ、どこで起きるか分からない大地震、さらに海に面した湘南エリアは津波の不安もあります。小さい子どもの子育て中のママやパパは、子連れでの避難を想定した備えをしておきたいですよね。
そこで、元幼稚園教諭で現在は防災の専門家でもある、子ども防災アドバイザーの大塩さやかさんに、親子でできる備えについてお話を伺いました。
それは、防災グッズの準備にしても避難の想定にしても、子どもができることを普段の生活で一緒に増やしておくことがとても大切ということ。
ここで紹介する内容を参考に、親子で楽しく日々の中に災害への備えを取り入れてみてください!
大塩さやかさん
子ども防災アドバイザー
逗子市の幼稚園に8年間勤務。2011年の東日本大震災時、被災地の子どもたちに何か出来ることはないかという思いがきっかけで、現地でボランティア活動支援を一年間行う。その後、ベトナム・ホーチミンの日系幼稚園に5年間勤務。その間、夏休みなどを利用して、日本の水害現場支援にも多数携わる。2019年に帰国後は、災害支援団体「ピースボート災害支援センター」で被災地支援の活動をしながら、逗子市の災害ボランティアネットワークにも所属して地域の防災活動も行っている。
大塩さやかさん 公式Facebook
「子どもと一緒に楽しくやってみる」で災害に備えよう!
「防災」というと、マニュアルやガイドに沿って大人が準備万全にしておくと思いがち。ですが、せっかく準備したグッズも平常時に使えなければ、緊急時に使うことは大人でも難しいもの。また、子どもは初めて手や口にするものに、不安や抵抗を感じてしまうこともあります。
だから、子どもも準備したものを事前に試してみて、使い方などを知っておくことがポイントです。
自然災害は怖くて辛いイメージもあります。もちろん実際はそうですが、だからといって準備のときまでそのような気持ちになる必要はありません。
「子どもと一緒に楽しくやってみる」ことを前提に、遊び感覚で体験しておくでOK。
例えば、子どもと一緒に「防災グッズは旅行感覚で荷造りする」「非常食を食べてみる」「避難ルートを実際に歩いてみる」など、普段の生活に災害への備えを取り入れていきましょう。
楽しみながらできるようになったことが、いざ避難生活になったときに、子どもの気持ちやストレスを和らげてくれることもあります。
防災グッズは実際に食べてみる、使ってみる事前確認を!
非常食は子どもも食べられるものか、準備したグッズは子どもでも使えるものか。防災グッズは親子で試してみるなどして、事前に確認しておきましょう。
非常食
小さい子どもだと授乳中や離乳食、普段から食べない、好き嫌い、アレルギーなどの食事面で気にかけておきたいことが多くあります。
避難所生活になると、食料がどの程度で入ってくるかは被害状況によりけりになり、好みのものや食べられるものが配給されるかも分かりません。
水や食料は、最低3日分は防災バッグに詰めておきたいですが、離乳食やアレルギー対応食は手に入りにくいので、ある程度準備しておくのが安心です。
緊急時でも、子どもは嫌いなものや配給されるものに飽きると食べてくれないこともあります。そうすると大人は心配な気持ちから「食べなさい」と怒り、子どもは余計に食べなくなる悪循環に陥ることも。
非常食は、普段の食事などで試してみて、子どもが食べられるものを防災バッグに入れておきましょう。
例えば「今夜は非常食パーティーだよ♪」と、子どもにとって楽しい雰囲気を演出して、食べられるものを増やしておくのも手です。
また、日ごろ食べている賞味期限が長いものや水を自宅に多めに備蓄しながら、食べたり飲んだりしたら買い足す、ローリングストックを取り入れるのもおすすめです。
☝ 実際にやってみました!
小学3年生になる筆者の息子は、習い事のスイミングに行く前に、毎回おにぎりやパンなどの軽食を食べています。そこで、わが家に非常食としてストックしてあったものを実際に試してみました。
実は、親子ともに初めてのアルファ化米体験。今回は熱湯で試してみたのですが、15分の待ち時間に外袋が膨らんでいく姿に興味津々。出来上がった白飯は柔らかくて食べやすく、途中ふりかけをかけても楽しみました。味噌汁は、乾燥わかめをプラスして具沢山に。こうして味を変えられるもの、乾燥野菜や海藻など追加して栄養がとれるものもあわせて準備しておくといいと実感しました!
ライト(照明器具)
避難時の停電や避難所での就寝時消灯など、夜は真っ暗になる場面もあり、慣れない暗闇に怖がる子どももいます。そんなとき、防災グッズのライトで明るくなることが分かっていれば、子どもの不安もひとつ減ります。
暗くした部屋の中や夜の屋外などの暗いところで準備したライトを子どもと点けてみて、「暗いところが明るくなる」ことを体験しておきましょう。
また、照準を絞りやすい懐中電灯、手元が使えるヘッドライト、まわりが明るくなるランタンタイプと、ライトにも種類があります。それぞれの使い方と実際の明るさも併せて確認しておきましょう。
携帯トイレや常備薬
災害時はトイレが使えなくなることもあり、トイレを我慢することで健康面に影響が出ることもあります。市販の非常用携帯トイレを準備しておくと安心ですが、避難時に初めて使うのは子どもにとっては難しいもの。子どもが使えるように、あらかじめ試しておきましょう。まだおむつの子は、その準備も忘れずに。
避難生活では、薬も入手困難なアイテムのひとつ。医師の処方がないと渡せないという自治体もあります。体調を崩してもなかなか受診できない状況もあるので、解熱剤など普段の常備薬は防災バッグにも入れておくと安心です。
お気に入りアイテム
おもちゃやぬいぐるみなど子どものお気に入りアイテムを、ひとつでもいいので防災バッグに入れておくのもおすすめです。
災害時に受けるストレスやプレッシャーは、子どもにとっても相当なもの。気持ちが乱れたときにほっと一息、落ち着くきっかけにもなります。
防災バッグはリュックタイプを
緊急避難するときは、「子どもと手をつなぐ」「ライトを持つ」「障害物をどかす」など、さまざまな状況に対応できるよう両手を空けておくに越したことはありません。なので、防災グッズを詰めるバッグは、リュックタイプがおすすめです。
また、いざというときに取り出しやすく、すぐに持ち出せる玄関のあたりに置いておきましょう。
防災グッズは親子一緒に荷造り
用意した各種防災グッズをリュックに詰めるときは、子どもと一緒に。「これは何に使うでしょう?」とクイズ形式などで、用途や使い方を話しながら詰めるのもいいですね。何が入っていて、どう使うのか、子どもはしっかり覚えています。
避難先と避難ルートは、あらかじめチェックと避難体験を!
海に面した湘南エリアは、大きな地震が起きたら津波が来ると想定して、いざというときの避難先と避難ルートを家族で確認しておきましょう。
大きな揺れが起きたときは、落下物を防げるような机の下に潜るなどして、まずは身の安全を確保。揺れが収まったらより高い場所に避難して、命を守る行動をとりましょう。
ハザードマップや町なかには、津波発生が予測されるときに避難するビルや高台などのマーク表示があります。自宅やよく行動する場所からの避難先と避難ルートを確認しておきましょう。
日々の散歩や買い物時に子どもと一緒に津波避難先マークを探したり、実際の避難をイメージしながら避難ルートを体験したりしておくとよいでしょう。そのときは、子どもも一緒に避難しやすいのは抱っこなのかおんぶなのか、ベビーカーが良いのかなど、避難方法もあわせて確認できるといいです。
☝ 実際にやってみました!
筆者と息子で、津波避難先マークや標高表示を探しながら町なかを歩いてみました。
津波避難先マークはいつもの町の風景に溶け込み過ぎていたせいか、なかなか見つけられなかったのですが、意外にも、息子が「ここにあるんだよ」と知っていたことにびっくり。また、標高表示は数字の大小で「さっきの場所より低いということは、水はどっちに流れる?」など、二人でいろいろと話をしながら探検感覚で楽しく確認できました!
家族の避難先や連絡方法の共有
地震は、どこにいるときに発生するか分かりません。自宅、買い物や遊びによく行く場所、また勤務先といった各場所での避難先を家族で共有しておくと、離れ離れになったときでも落ち合いやすくなります。
さらに、災害時は携帯電話がつながらない、電池が切れてしまったなど、携帯電話が使えない状況も想定されます。携帯電話に電話番号が登録されているため、自宅や家族の携帯電話の番号を知らない子どもでも、家族と連絡が取れるように必要な電話番号はメモなどで持たせておくと安心です。
そんな時に活用できるのが公衆電話で、緊急時でも優先的につながるようになっています。公衆電話の場所や使い方を子どもと体験しておきましょう。ただし、停電になってしまうとテレフォンカードは使用できなくなります。小銭を用意しておくことも忘れずに。
また、災害時の連絡手段の一つとして、NTTが「災害伝言ダイヤル(171)」という音声伝言板を提供しています。誰がいつどこにどのような状況かを伝言板に残しておくことができるので、家族の安否確認にもなります。
毎月1日と15日 には体験ができるので、家族で体験しておくのもおすすめです。
避難は必ず靴を履いて!
自宅から外に出て緊急避難するときは必ず靴で、できればスニーカータイプの歩きやすいものを。とくに夏はビーチサンダルを履くことが多い地域ですが、走りづらく、露出が多いのでケガもしやすいです。もちろん子どもも、「避難はスニーカー」と覚えておきましょう。
地域の人とのつながりを築いておこう!
近所の人など地域の人とのつながりは、災害時には非常に心強い絆となります。
「あそこのお家は3人子どもがいて、下の子はまだ赤ちゃん」など、近所の人がこちらの家族構成を知っていれば、いざというときに手助けしてもらえることもあります。
また、赤ちゃんがいると泣いて迷惑だからと避難所に行かない人もいます。小さい子がいると躊躇してしまう気持ちもありますが、自宅が危険な場合は遠慮せずに避難所に行ったほうが安全です。
避難所に行くという状況は、たいていは近所の人も同じ状況。同じ避難所で出会うことも多いです。お互いのことを知っていれば「あそこの家族は小さい子がいる」と状況を温かく理解してもらえたり、ほかの人にも伝えてもらえたりすることもあります。
「私たち支援団体が現地の避難所に入るときも、まずは被災者の方への積極的な挨拶から始めます。まずは、近所の人への日ごろの挨拶から始めてみても」と、大塩さんからアドバイス。
その姿を見ることで、子どもも「この人知っている」という、安心できる大人の顔を覚えていくこともできます。
お互いを受け入れるために、お互いを知っておく。そのためにも、日ごろの地域のコミュニケーションを大切にしておくといいですね。
普段の生活の積み重ねが、もしものときに生かされる
どのような状況になるか、完全には想定できない自然災害。「こうしたら絶対に助かる」という防災の正解はありません。
だからこそ、「普段の生活で経験したことが、もしものときに生かされる」と、日々の中でさまざまな経験をして、親子でできることを積み重ねておくことが大切です。
そして、緊急時はなるべく冷静に早い判断を大人がしてあげることで、子どもの不安も少なくなります。反対に、子どもにできることが増えれば大人の安心材料も多くなります。
筆者も、息子と一緒に非常食を試したり、避難マークを探してみたりしましたが、親子でいろいろ会話しながら楽しくやってみたことで息子の記憶にも残ったようです。
災害への備えは「子どもと一緒に楽しくやってみる」。
まずはここで紹介した防災グッズを試したり、避難先を事前に確認したり。普段の生活でできることを、親子で楽しく取り入れていってください。
家族は夫・息子・犬一匹。東京→逗子生活も10年以上経過。海で泳ぎ、川で魚を探し、緑の中で虫採り。これからも子どもと一緒に楽しい発見をして、たくさんのママとシェアできたら嬉しいな。